ピアノレッスンを通して育つもの

 ピアノは、脳を活性化する言われます。

 指を動かすことはもちろんですが、楽譜を理解したり、記憶したり、音を聴いたり、次の音を予想したりと、脳への刺激がとても多いという理由からだそうです。

 また絶対音感の練習は、IQを10ポイント上げるという説もあります。

 

 頭を良くすることが、ピアノを習う目的ではありませんが、ピアノを通して可能性を広げ、自分らしさを活かした人生を歩んでいくことが出来たら、素晴らしいことだと思います。

 

 ピアノを習うことで脳の力がアップするのには、一つ条件があるのだそうです。それは楽しくやることだそうです。嫌々やっていても、脳は活性化しないのですね。

 

 では、ピアノで「楽しい」というのはどんなことなのでしょうか?

 ・美しさを感じられること。

 ・弾きたい曲が弾けること。

 ・自分に自信が持てること。

 ・周りの人に褒めてもらったり、喜んでもらえること。

など、いろいろとあると思います。

 

 けれども、最初からそんな風には出来ません。

 だからと言って、「上手になったら楽しめるのだから、最初は我慢して練習しなさい」というレッスンになってしまったら、楽しくなる前に、「ピアノはつらいし面白くない」と思ってしまいます。

 楽しんで学ぶことが出来なければ、その過程で脳を活性化することもできません。

 

 幸いなことに、小さい子どもでも楽しめる課題に取り組みながら、音感やリズム感、手のフォーム、読譜等の基礎力をつけるテキストや方法が、今はたくさん開発されています。

 目的を持ってそれらの教材を使うことで、今できることを楽しみながら基礎力をつけ、まだ出来ないことにもチャレンジするレッスンができます。

 初めから楽しんで、ピアノを習うことができるのですね。

 

 実際のレッスンで、今すぐに出来ることと、だんだんできるようになる課題とのバランスや割合をどのようにするかは、生徒さんによって様々です。

 少し長い期間、基礎的な課題を中心にレッスンを進める場合もありますが、何かの課題で自信がつくと、花が開いたように先に進み始めます。

 

 心の準備が整うと、自分からどんどん前に進み始めるのは、子ども自身が、自分を成長させる力を持っているからだと思っています。

 準備を整えるための課題を続ける間には、大人の忍耐力が試されることもありますが、じっくりと一緒に楽しみながら続けていくことで、ゆるぎない基礎力を育てることができるのだと、子どもたちの成長を見ていて思います。

 

 また私は、カウンセリングの勉強を通して、言葉かけによって心をほぐすことを学んでいますので、出来ないことを指摘するより、出来ていることを認めたり、がんばていることを認めたりするように心がけています。

 

 たとえば、弾いている途中で音を間違えて止まってしまった時に、それを「間違えた」と取るか、「自分で間違いに気づけた」と取るかで、その子にとってのレッスンの色彩は、全く違ったものになります。

 出来たことに焦点を当てることで、レッスンで行った一つ一つの行為を、子ども自身も前向きに受けとめて、さらに先に進んでいく力が生まれるのだと思いますし、楽しく学んでいく過程となるのだと思います。

 

 いくら脳が育って力がついても、心がブレーキをかけてしまっては前に進めませんから、心の緊張や力みを取り除くことは、とても大切なことですね。

 

 おそらくピアノに向かう楽しさは、一生懸命に何かに取り組む中で、出来ないことにも向き合ってクリアしていく、そんな楽しさなのではないかと思います。

 そしてその過程で、音楽の美しさや楽しみ方を覚え、いつの間にか脳も活性化して、より自分の力を活かせるようになっていくのではないでしょうか。

 

 アドラーという心理学者によると、幸せとは、自分が好きで、他人が信頼できて、社会に貢献できる状態なのだそうです。

 ピアノの美しさを感じながら、がんばっている自分に自信を持って、前を向いて堂々と生きていける人を育てたくて、私はピアノを教えています。自分を信頼出来たら、人も信頼できるはず。そして社会に貢献する喜びを感じる心も、きっと育ってくれると信じています。

 

 お子様の心と頭と音楽を、レッスンを通して育てていくことができましたら、とても嬉しいです。